トリックスターエピソード

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正体不明の古文書

巨大神話から消えてしまった一つの隠された話
[アルテオの創世神話と滅亡に絡まれている伝説]

アルテオ創世神話1-ネペトリ王女

太平洋に浮かぶ古代アルテオ帝国の中に小さな島で成り立った「プレメイア」という王国が存在した。
その島への海路はとても遠く、困難であったこともあり異国の人間が島に出入りする事などほとんどなかった。
プレメイアは貿易商人たちが大陸を往き来する際に立ち寄るだけの小さな島国であったが、地上のパラダイスと呼んでもいい程、自然が豊かでとても美しい島だった。
プレメイア王国には女神さえも嫉妬するほどの美貌をもった「ネペトリ」という王女がいた。
王女は国民に慈悲と勇気を与え、幸せと幸運の象徴と讃えられながら、生きるもの全ての愛を一身に受けていた。
ネペトリの美貌の噂は異国の地にも伝わったが、プレメイアがあまりにも小さい島国だったため、わざわざ訪れる者はいなかった。
だが、そんな中眠りにつく彼女を海の中から密かにうかがう影があった。
海で起きるあらゆることを素早く伝達する「海の口」と呼ばれる魚の群れと、好奇心が強くどんなことでも聞き逃さない「海の耳」と呼ばれる精霊たちだ。
彼らによって深海に住む海の化け物「エンキクラデュス」にまでそのウワサが広がっていった。
エンキクラデュスは、3つある頭のうちの1つにある人の顔で噂に聞いた王女を見るためにプレメイアの近くに姿を現したのだった

アルテオ創世神話2-海の化け物エンキクラデュス

浜辺で散歩をしていた王女の姿を見たエンキクラデュスは、すぐに彼女に結婚を申し込んだ。
しかし無様な化け物の姿を見て怖気づいたネペトリは二度と浜辺近くにはいかなかったし、王国ではネペトリの結婚の準備が進められようとしていた。
ネペトリの結婚相手は勇猛果敢な大陸国「イルリオン」の富豪の息子である王子だった。
プレメイア王国では、どんな騎士よりも強く、優しいイルリオンの王子なら王女ネペトリのために海の化け物を退治してくれるであろうと考えたのだ。
また退治できなくとも、この盛大な結婚を通して大陸に逃げることができれば、エンキクラデュスの魔の手がイルリオンにまで及ぶことはないだろうと考えたのだ。
だが、プレメイア王国の思いと裏腹に、このウワサを聞いたエンキクラデュスは怒り狂い、王女を奪おうとするイルリオンの王子と彼の軍隊を残酷なやり方で皆殺しにしてしまった。
そしてプレメイアを大陸から完全に孤立させ、島の人々を脅して王女を差し出すことを要求した。
しかし島の人々はエンキクラデュスの脅しに屈せず、女神のように慕い続けてきた王女ネペトリを最後まで守るためにエンキクラデュスと対立して命をつくすことに決意した。
そうしたある日の夜、海の精霊のまやかしに誘われて浜辺にやってきたネペトリは海水に足が触れるやいなや波の縄に縛られて海底へと引きずられて行ってしまったのであった。
そう、エンキクラデュスがネペトリを誘拐し、深い海へ連れ去ったのだ。

アルテオ創世神話3-アルテオ帝国

一連の事件を伝え聞いたポセイドンは、海の秩序を乱すエンキクラデュスを不満に思い、あっさり殺してしまう。
そこでポセイドンとネペトリが出会うことになる。
ネペトリの美しさをみてポセイドンもこのうつくしい王女を独り占めしたいという衝動に駆られたのだ。
そしてポセイドンは自分だけが知るとても遠い海底深く、濃い青の深海の中に秘密の場所を作って彼女を隠しておこうとした。
誰も触れることができないその場所に宮殿を建て、故郷を離れてさびしくしずんでいる彼女のためにプレメイアより立派な楽園を作り上げようとしたのだ。
ポセイドンはネペトリの気持ちを掴むために美しく神秘的な力を持った彫刻をプレゼントした。
それは「ハルコン」の中でももっとも巨大なものを作って作られた彫像だった。
彼は彫像と共に十六の守護者たちを遣わせてハルコンの彫像を守るように指示し、その力を制御する能力をネペトリの息子と娘たちに与えた。
のちにアルテオの人々はこの彫像を「ポセイドンの祝福」と呼ぶようになり、ハルコンの力を制御してアルテオを支配するネペトリの子孫たちを『トリックスター』と呼んで英雄として讃えたという

アルテオ創世神話4-ネレイデスの呪い

海の神の娘であると同時に海の精霊のネレイデスはポセイドンが愛したネペトリの存在に怒りをあらわしていた。
怒りの理由は三つ。
一番目は彼女の姉妹の一人、ポセイドンの妻でもあるアムピトリテをポセイドンが裏切ったということ。
二番目は彼女の姉妹の一人息子であるエンキクラデュスを殺したということ。
三番目は海で一番美しく憧れの存在でなければ気がすまないという精霊たちの単純な妬みだった。
ネレイデスが死の使いデスとともにネペトリを死に追い込もうとしていることに気づいたポセイドンは、ネペトリをハルコンの中に閉じ込めたのだった。
ネペトリを愛したポセイドンが作り上げた帝国、アルテオは祝福と繁栄、栄光を謳歌した。
しかしさすがのアルテオ帝国も自然の力には勝てなかった。
創設からほんの短い期間で海底の巨大地殻変動により滅亡することとなる。
アルテラスの海底火山が爆発によって地震が発生し、海底にも暴風が吹き荒れた。
そしてアルテオは歴史に1行も名を残すことができないまま、あっという間に時間の渦に消えてしまうのだった。
そんな中、大陸へ辛うじて逃げ延びることができた極少数のアルテオ人は、このおびただしい災いを「ネレイデスの復讐」と思った。

奇妙な箱の文書ファイル

ハルコンの彫像と守護者の物語

ポセイドンの宝石

「神の宝石」と呼ばれる「ハルコン」は人間が近づくことのできない、
地球の中心の深いところに位置した特定岩石地帯で、高い圧力と熱を受けて生成されるようだ。
これらがアルテラスの火山噴火口を通じて噴出され、深海の冷たい水温と接触することで結晶となり、再び堆積されるまで気の遠くなる期間を経て作られるのである。
人間の手が届かない領域で作られたため「神の宝石」と呼ばれることもあるが、
アルテオに伝わってきた創世神話によると「ハルコン」は「ポセイドンの宝石」とも呼ばれている。
それは「ハルコン」がポセイドンが治める領域だけで生成されたからだ。
ポセイドンはこの宝石を時々神々の国に住む女神に捧げていた。
しかし、この世に2つと存在しないくらい大きな「ハルコン原石」の存在に対しては、これまでにないほどの魅力を感じていた。
そんな中、ポセイドンは海を荒らすエンキクラデュスを退治するときに出会った「ネペトリ王女」に一目惚れをしてしまった。
彼女の心を得るために、自ら「ハルコン原石」で彫像を作ってプレゼントをしようとしたポセイドンは、
海底の深い洞窟にしばらく身を隠していたヘパイストスに「ハルコン原石」を彫刻してくれるよう頼み、
見事な細工術を持ったヘパイストスは、製錬した特別な道具を利用して、アルテラス山脈の噴火口で
一番熱い溶岩から「ハルコン原石」を女神が欲しがるほどの美しい彫刻で作ってくれた。

16片の地図

このようにして作られたハルコン原石の彫像「ポセイドンの祝福」は神々までも欲しがった。
ポセイドンはネペトリ王女に彫像をプレゼントするとき、16人の守護者達にもそれを一緒に贈った。
16人の守護者たちは、それぞれを象徴する宝石から生まれ、これらの宝石は宝石の中の宝石である「ハルコン」に帰属していた。
16人の守護者たちは、ハルコン原石の彫像を守り、その彫像の主人であるネペトリ王女に仕え、
ハルコンを制御するトリックスターたちの資格を審判し、彼らが認めるもののみに従うと誓った。
巨大な自然災害がアルテオを襲ったときも、16人の守護者たちはハルコン原石の彫像を、彼らだけが知る約束の場所に深く封印させ、その位置を地図に残して16片に分けた。
そして帝国が滅亡すると共に、彼ら16人の守護者たちも海の闇の中に消えてしまった。
彼らは自分たちが守らなければならないハルコン原石の彫像が存在する限り永遠に、
アルテオ帝国が滅亡しても、未知の海の奥深いところにハルコン原石の彫像と共に今も眠っている。
ハルコン原石の彫像を再び捜すためには、「16片の地図」と「特別な羅針盤」が必要となる。
これらは16人の守護者に認めてもらったときにだけ手に入れることができる。

最初の守護者の秘話

守護者の誕生背景

秘密は真実であるほど隠しにくい。
ハルコン原石の彫像に関する秘密もそうであった。
ポセイドンはネペトリ王女とハルコン原石の彫像の存在を海の奥深い秘密の場所に隠していたが、そのうわさが流れることまでは防ぐことができなかった。
原石の状態であるハルコンは、ただ周りにある光そのものに反応して輝いただけでなく、
最高の腕前で磨かれたハルコンの彫像は、闇の中でも光を発し、その光は増し、太陽のように輝いた。
よく研ぎ澄まされたハルコンからは可視光線以外にも、超光波と呼ばれる未知の能力があるが、
超光波の波長が視神経を通じ、脳波に伝達すると一種の催眠のような効果を作ることができる。
このようなハルコン原石の彫像の美しさと希少価値、彫像が持つ潜在能力を望む者たちが近くに現れた。
所有欲の強い神々が送った代理者と貪欲なモンスターたち、その他にもあらゆる危険な存在がハルコン原石の彫像を狙い始めた。
ポセイドンには、自分の代わりに、愛するネペトリ王女とハルコン原石の彫像を守ってくれる者が必要だった。
ポセイドンは彼らと対決をする場合、他の神々との摩擦や争いごとを避けたかったし、侵入者と略奪者たちを直接には相手にしたくなかった。
そこでポセイドンは美しい宝石に立ち込める生命力と魔力に能力を吹き入れ、守護者たちを作る事にしたのだ。

最初の守護者の秘密

最初に選択した宝石はアレキサンドライトだった。
ハルコンに負けず劣らず珍しく美しいアレキサンドライトは、ネレイデスたちが送ったプレゼントだった。
海の神さまの娘であり、海の妖精であるネレイデスたちは、ポセイドンが海の奥深いところに隠した
愛する恋人ネペトリ王女の存在に気付き大変怒ったが、ポセイドンに正面から対立することはせず、
彼女たちの最大の宝物であるアレキサンドライトを出す方法を選んだ。
しかし懐柔のように見える行動の裏には、ネレイデスたちの陰謀が隠されていた。
彼女たちは大魔女キルケの力を借りた。
ネレイデスたちに頼まれた大魔女キルケは、憎しみに溢れて醜く死んでいったある魂を蘇らせた。
大魔女キルケは怒りと復讐心で燃える魂を、アレキサンドライトの中に吹き入れ、直接美しい海の妖精に変わり、
ネレイデスたちの伝令士としてポセイドンを尋ね宝石を献納した。
ポセイドンはこの事実に全く気付くことなく、彼は大魔女キルケの魔法に惑わされたように
アレキサンドライトを受け入れ、その宝石に彼が持つ最高の力を吹き入れた。
最初の守護者であると同時に、復讐の火神という二つの顔を持った「守護者ヤヌス」はこうして誕生した。
ポセイドンが最初の守護者をヤヌスに命じたのは、アレキサンドライトの性質に似ている彼の外形のためだった。
彼の鎧と兜は、光と闇の中で裏の色裏の姿を見せてくれた。
ヤヌスはトリックスターたちとともにハルコン原石を狙ったゴルゴン、スキルレ、シッタースに戦いを挑み、
彼の力はハルコン原石の彫像とネペトリ王女、そしてアルテオ帝国をしっかりと守りきった。

16人の守護者

しばらくの間、ヤヌスはトリックスターとアルテオ人の信頼を得て力強く重要な存在であったが、
時間が経つにつれ徐々に危険な存在へと変わっていった。
アレキサンドライトが持った本来の魔力が、ポセイドンが吹き込んだ力によって倍増し、時間が経つにつれ
内面に潜在された復讐心と憎悪心が生き返り始め、やがてトリックスターたちにもコントロールできないほどの力を持った、破壊の守護者になっていった。
ある日ヤヌスは、トリックスターとともに侵入者と対立した危機状況で、トリックスターの静止を聞かずに消えてしまった。
彼が消えてしまった理由については明らかになっていないが、その後、誰も彼を見ることがなかった。
アルテオ人たちは「最初の守護者は自らの力に手を余し、押さえることができずにどこかで自滅した」と言っていた。
この知らせを聞いたポセイドンは、ヤヌスの代わりの守護者を作った。
アレキサンドライトに吹き込んだ力を15個の宝石に分けて吹き込み、そこからぞれぞれの守護者が生まれた。
15個の宝石から生まれた守護者はヤヌスとは違い、お互いの能力を牽制して力のバランスを保ち、危機の前では力を合わせた。
例外的に宝石から生まれなかった守護者が1人いるが、ポセイドンは自分が信頼していたある水人族に
直接宝石の力を吹き込み、自分の代わりにネペトリ王女を最も近くで守る守護者にした。
こうして最初の守護者だったヤヌスは人々に伝説として記憶され、ハルコン原石の彫像とネペトリ王女を守る守護者は、ヤヌスを除く16人で構成された。

記憶の炎

運命の女神に憎まれる赤ん坊

はるか昔、海の聖霊である50人のネレイデスの14番目の姉妹が、運命の女神の決定に逆らった事があった。
ネレイデスの娘はある人間の男を愛していた。
そしてその男が運命によって定められた死を迎える瞬間、あろうことにも女神たちを欺き、男の命を救ったのだ。
しかし、生まれながらにして定められた人の運命は、神でさえも犯すことができない。
運命を変えてしまったネレイデスの娘に罪を償わせるため、モイライの三女神の一人である「機を織る女神」クロトが生まれてくる娘の子供に運命に「呪い」を織り交ぜた糸を紡いだ。
彼女たちはさらに、兄弟神である「死の神」タナトス、「宿命の神」ケド、「老化の神」ゲラス、「苦痛の神」オイジスに力を借り、織り上げた「呪い」をさらに強くした。
この事実を一足遅く知ったネレイデスたちは、彼女たちの息子であり、また甥子であるエンキクラデュスのためにほかの神々にエンキクラデュスを救ってくれるように頼んだが、彼らでさえもすでに決定されてしまった運命を変えることはできなかった。
ただ、「美の女神」と「知恵の女神」に祝福されたのか、赤ん坊はとても美しく、賢く聡明に育った。
しかし、成人を迎えると神たちの「呪い」によって三頭の化け物へと変わり果てた。
予見された悲劇がついに始まったのである。
美しかった人間の姿は、三つの頭のうち一つにだけ、かろうじて見ることができるだけであった。

恋人ポルティナとの出会い

エンキクラデュスは、人々に醜悪な化け物の姿を見られたくないという思いから、深い海の闇の奥にその身を隠した。
しかしある日、海の聖霊たちからある便りが伝えられた。
恋人ポルティナが、愛する恋人を探して深海への入り口である海に飛び込もうと、海辺の断崖に立っているというのだ。
精霊たちは彼女の無謀さをあざ笑った。
エンキクラデュスはポルティナが海に飛び降りるのを防ごうと、自分が化け物の姿であるということも忘れて駆け付けた。
しかし、エンキクラデュスが断崖に姿を現しても、彼女はそれがエンキクラデュスであるということに気づかず、ただ突然現れた化け物の姿に、驚き後ずさりした。
彼女の表情は恐ろしさと嫌悪感でいっぱいだった。
その表情に彼は絶望し泣き叫び、そして愛は憎しみへと姿を変えた。
彼女はその後すぐ、その化け物がエンキクラデュスであるという事実に気づいたが、それはエンキクラデュスの叫び声にかき潰されてしまった。
「僕を眺めているあなたの反応を見るのが、僕にとってどれだけ残酷なことだかわかるかい?
 君はこの醜く変わり果てた姿をその目で見たくてここへ来たのか?
 それとも君はこんな化け物も愛することができるというのかい?」
「私は化け物を愛することはできないわ。
 けれどあなたが愛するエンキクラデュスなら、私にとっては化け物なんかじゃないわ。
 たとえあなたの姿が変わってしまっても、私の気持ちは変わらない…。
 それとも、あなたは気持ちまで変わってしまったの?」
これがエンキクラデュスがポルティナと交わした、最後の会話となってしまった。

外れた槍と外れた死

運命に定められたままに時間は流れていた。
誰かがその光景を見たら、化け物に生贄として捧げられた一人の女性の命が危なげに見えても不思議はなかった。
近くを通りかかったある勇士がポルティナを助けるため、無防備であったエンキクラデュスに向けて猛毒が塗られた槍を投げた。
これに気づいた彼女はエンキクラデュスをかばい、槍に刺さって命を落としてしまった。
エンキクラデュスは、化け物になった自分を愛してくれたポルティナの気持ちを最後まで信じることができず、さらには死に追い込んでしまったという罪悪感に苦しみ、海の中に消えてしまった。
そして愛する彼女の後を追い自ら死を選択することもできぬ運命を恨みながら、死よりも辛い苦痛の中で果てしない時間を過ごさねばならなかった。
「完全な化け物になってしまえば、こんな痛みなんて感じなかったかもしれない。
 完全な化け物にもなれず、死ぬこともできない。
 これが自分の呪われた運命なのか。
 この運命の糸を切ることはできないのだろうか」
と、エンキクラデュスは恋人を失くし悲しみに暮れた。

誰も知らない事実だが、運命の三女神の二女「恩恵の女神」ラケシスは、エンキクラデュスが生まれる日、彼のことを憐れんでほかの女神たちに隠れて一つの恩恵を与えていた。
“永きに渡る運命よりも強い真の愛で、この呪われた糸を断ち切ることができる”
というものだ。

そして長い年月が経ち、プレメイア王国にネペトリ王女が生まれると、エンキクラデュスの運命はまた糸を捜し始めた。

ポセイドンの登場

ギャアァァ!
化け物エンキクラデュスの激しい咆哮が、海の中を揺るがせた。
ネペトリは恐ろしさのあまり逃げることさえできずに立ち尽くしていた。
トライデントを構えたポセイドンが白馬にまたがり、白い泡を絶えず立てながら物凄い勢いでこちらへ向かってきていた。

「今まで誰より死を待っていたが、やっと彼女に会えたんだ!
 僕は今死ぬことはできない!」
エンキクラデュスは、ポセイドンに向かって剣よりも鋭く大きな牙をむき必死に飛び掛かったが、ポセイドンがトライデントを高く構え、円を描くように力強く振り回すと、巨大な波の渦に巻かれ、エンキクラデュスは呑み込まれてしまった。
エンキクラデュスの逞しい体は風にひるがえる落ち葉のように飛ばされ、嫌な音とともに岩に激突した。
その衝撃でエンキクラデュスの三番目の頭が気絶し首を垂らした。

うめくエンキクラデュスの前にポセイドンが近づき、とどめを刺すためトライデントを高く構えた。
「私の海を荒らした愚か者よ。その対価は死のみだ」
しかし、砂の中に隠しておいたエンキクラデュスの長く鋭い尻尾が蛇のように現れ、ポセイドンの背中を狙っていた。

エンキクラデュスの死

どこからか矢が飛んできてエンキクラデュスの尻尾を貫いた。
エンキクラデュスは鼓膜が破れるような悲鳴を上げたが、さらにポセイドンは彼の体にトライデントを深く刺し込んだ。
「こ…れで…死ぬ…なんて……」
エンキクラデュスは最後の息を飲み込むことも吐き出すこともできぬまま、ネペトリのそばに近づこうと全力を尽くしたが、少しも動くことはできなかった。
目を開いていることさえ大変で、涙を流すことが血を流すことのように辛かった。
エンキクラデュスは海よりも深い悔恨と、塩よりも濃い悲しみの目でネペトリを見つめた。
ネペトリは、倒れてしまったエンキクラデュスから流れ出る血の海を見て、悲鳴の声を上げそうになるのを、両手で口を押えて我慢するのがやっとだった。
彼女の目からは止めどなく涙が零れていた。
飢え切ったメイルウルフたちがエンキクラデュスの死を感じ取り、遠巻きに群れを作り迫りつつあった。
メイルウルフたちは死の使臣を導く先導役だったのだ。
しかし彼らよりも先に、運命の女神がそこに現れた。
“ポセイドン様、あなたが彼の死に関われるのはここまでです。
 彼の肉体はあなたの思い通り滅びました。
 しかし彼の魂は最初から運命に定められた通り、私たちが管理するもの。
 私たちが連れて行きます。”
死の使臣が到着する前に女神たちはエンキクラデュスの肉体から魂を抜き出し連れて行ったのだ。

ポセイドンを助けた男

全てを遠くから見守っていた一人の男が、いつの間にかポセイドンとネペトリの背後まで来ていた。
ポセイドンはその男に尋ねた。
「弓を放ったのはお前か?」
男は膝をつき丁寧に答えた。
「海の神様よ、さようにございます」
「大した腕前だな。名をなんという?」
「私の名前はロビン・バン・ベルオジャと申します。
 1ヶ所にとどまることなく、海の中を彷徨いながら剣と弓を磨く水人族です。
 たまたま近くを通りかかったのですが、危険を感じ一時も早くなんとかしなければならない状況だと思い、あえて弓を使ってしまいました。
 どうかお許しください…」
ポセイドンは彼の頭に手を置きながら言った。
「顔を上げるが良い、水人族の息子よ。
 お前に力を与えよう。
 その力で私に命を捧げるのだ」
ロビンは立ち上がった。
ポセイドンが持ち上げた右手から水玉が凝縮され、煌く青い宝石が現れた。
「これは海を象徴する宝石アクアマリンだ。
 このアクアマリンが持つ力をお前に与えよう。
 お前は永遠の若さと近い未来を見通す眼を手に入れることができるのだ」
ポセイドンの手から離れた青い宝石はロビンの手に渡され、彼の掌の上で眩い閃光とともに消えてしまった。
「お前に与えたその力で、あの女性の守護者になってくれぬか?」

アクアマリンの守護者

ロビンは答える前にネペトリを見つめた。
ネペトリはポセイドンとロビンの間で、恐ろしさと警戒心から震えていた。
ロビンは目前で起きた化け物の死に涙を流した彼女のことが頭から離れなかった。
実はポセイドンが現れるよりも早く、ロビンはこの近くに隠れてエンキクラデュスに捕らえられたネペトリを発見し、彼女を救うためにずっとチャンスを狙っていたのだ。
結果的に化け物は死んだが、彼女はこれからポセイドンに拘束されてしまう。
彼女が望む望まざるにかかわらずだ。
彼女は海の神であるポセイドンの求婚を断ることはできまい。
ポセイドンは彼女の国であるプレメイア王国の神であると同時に、彼女自身の神でもあるのだから。
ネペトリを救おうとした自分の行為が、何故か彼女をもっと酷い目に合わせてしまっているのではないかとロビンには思えてきた。
しかしこれ以上ポセイドンへの問いへの返事を待たせるわけにはいかなかった。
「分かりました。
 私の全てを捧げ、彼女の守護者となりましょう」
ロビンは考えをまとめぬままそう答えた。
もしかしたら彼女のそばにいたかっただけかも知れない。
この胸にのしかかる鈍い痛みは何なのかも知りたかった。
いや、彼女をポセイドンに渡して慣れぬ場所に一人残しておくわけにもいくまい、
これは一抹の責任感のようなものなのだと、無理矢理納得するように考えるのをやめるのだった。

島を訪ねた目的

ラブハンターロビンはそうしてネペトリとハルコンの彫像を長い間守ってきた。
ポセイドンの溢れる豊さも、彼女の奥深くに隠された空虚しさを満たすことはできないようだった。
ラブハンターロビンはその理由が初めて会った時に見たあの涙の理由と同じものだと思った。
「神の命令に逆らうことができなかったのは、死んだ化け物のために流したあなたの涙を見たからです。
 私の放った矢があなたを救ったのではなく、あなたの心を痛ませてしまったんですね?
 私はその答えのために、あなたのそばにいることを選びました。
 その答えが分かって涙の対価を支払うことができたら、私は身も心も自由になってあなたのそばを離れることができるでしょう」
ネペトリとハルコンの彫像を守る守護者の中で唯一、人間の肉体を持つラブハンターロビンは、彼女が精霊になってからも
彼女のそばを離れず守り続け、アルテオ帝国が滅亡した時も、彼女に再び会う日を待ちながら深い眠りに入った。
そして予知能力を持つ彼は、島が海の上に出現する前に目覚め、活動を開始したのだ。

ラブハンターロビンはメガロポリスとドンカバリアの行動を察し、トリックスターたちを探し求め、
彼らの能力を覚醒させる助けになるためにカバリア島を訪れたのである。
今度こそ、ネペトリの涙の理由を知ることを期待しながら……。

運命の女神の巻物

呪いの巻物

運命を偽った愚かなネレイデスよ。
その代償として、私がお前の息子の運命を弄んでやる。
お前の息子の運命は、悲劇的な死と老いと苦痛にせめられるであろう。
そして愛は「死」によって成熟することなく、光に生まれ変わろうとも闇に飲まれる「宿命」を持ち、
美しいけれども咲くことができずに散ってしまう死のように、老いに蝕まれ、どんな名医でも治すことのできない
「苦痛」の呪いをその身に受けながら生きていくことになるだろう。
そしてその運命の糸は死のみならず時空さえも超えてお前の息子を捕らえ続けるであろう。

恩恵の巻物

定められた運命を変えることはできません。
しかし、運命に対する人間の想いは変えることができるのです。
その中で最も強いものは愛の力。
真の愛が見せてくれる感動こそのみが、運命の女神たちの気持ちを変えることのできる唯一の方法です。
それは人々が奇蹟と呼ぶもの。
その奇蹟は真の愛のみが見せることができるものなのです。
エンキクラデュスよ、あなたの呪われた運命に真の愛が込められるように
強い真の愛で永きに渡る運命の糸を断ち切りなさい。

トリックスター神殿の壁画

一番目の壁画 "誕生"

プレメイア王国の王女ネペトリは幼くして遠く故郷を離れ選択することができない愛と、逆らうことができない愛の狭間で苦しんでいた。
知る人もなく不慣れな場所で、そこに住む種族を治めるという重大な義務を与えられた彼女の心には故郷と家族への思いが募っていた。
そんな折、彼女のことをみかねたポセイドンが彼女に与えたハルコンの彫像は彼女の心を癒すのに大きな効果を発揮した。
それは虚栄心や所有欲から始まった満足感からくる喜びではなく、純粋に美しいと感じる喜びだった。

ハルコンの彫像は光が世の中に与えることができる最も美しい贈り物だった。
その美しい光は見る者の心まで届き、心に広がる暗い影まで照らし出してくれた。
ポセイドンは自分に仕える彼女を可哀そうに想い、郷愁に駆られた彼女に血縁を作ろうとしていた。

「私の全能な力と、ネペトリの愛と涙を合わせ、新しい生命を作ろう。
 彼らは光から生まれ、光の力で成長するだろう。
 彼らにハルコンを通じて人々を良い方向へと導くことができる力を与え、
 アルテオの支えになるようにしよう。
 彼らも神と人間の間を行き来するものとして、人間たちの英雄となれるようにしよう。
 彼らの地を受け継いだ者達もその力と祝福を引き継げるようにしよう」

そして、王女ネペトリは四日間ずっと眠り込んだまま夢を見ていた。
彼女は夢の中で胎児の出産を経験した。
その夢から覚めた時彼女の横には大きな卵が置かれていた。
その卵は通常の卵とは違い、輝く光できらめいていた。
光の燦爛(さんらん)たる光彩はまるでハルコンの原石を見ているようだった。
アルテオ人はこれを崇めるための神殿を建てた。

神殿で彼らの神であるポセイドンに感謝を表し、卵が無事に孵化するように真心を込めて守っていた。
多種族からなるアルテオ人の間に内在した葛藤と分裂の兆しも、人に慣れていない野生の動物も神秘に輝く卵をたずねてきて敬意を表した。

卵は100日が経つと殻にひびが入り、その隙間から眩しい光が漏れて殻が剥がれ落ち、新しい生命が誕生した。
輝く卵の中からは四人の赤ちゃんが出てきた。

二番目の壁画 "成長"

トリックスターの起源「成長」編

輝く卵から生まれた子供の4人のうち、2人は男の子、2人は女の子だった。
普通の子供と違い、彼らは生まれたばかりなのに話すことも、歩くこともできた。
一見人間の姿のようだが、動物の耳と動物のしっぽがついていた。
アルテオ人たちはこの赤ちゃんたちがポセイドンと自分たちの間をとりもち、動物と自分たちをとりもってくれる存在だと考え、彼らのことを「トリックスター」と呼ぶようになった。

4人の子供たちは精神的にも肉体的にも人間よりずっと早く成長した。
アルテオの4種族の元老たちがそれぞれの子供を一人ずつ引き受け、教育し、種族の秘記を伝授して、種族代々に伝われる伝説の武器を渡した。
そして彼らが10歳になった時に聖なる儀式を行った。
ポセイドンの前で膝をつき、祈る儀式。
それにより、彼らはポセイドンより特別な力が与えられた。

その力とは、ハルコンの彫像に込められた力を引きだし、人々の心をより良い方向に導くことができるというものだった。
アルテオ帝国の建国後にもたらした種族間に生じた亀裂はトリックスターの能力によって解消された。
種族間の合意をきっかけにアルテオ帝国は急速に文明の発展を成し遂げた。
4人のトリックスターたちは各種族の責任を負う役割をし、それぞれの種族に属した人と婚姻し、子を宿し彼らの血を引き継いでいったのだ。

三番目の壁画 "英雄"

トリックスターの起源「英雄」編

“侵入者だ。”
警備兵たちの声が平穏な夜明けを引き裂いた。
二重三重の警備網を突破し、アルテオ帝国都市の中に化け物が侵入してきた。
古代の巨人の姿をした石像の化け物だ。
その化け物は全身に古代文字で呪いが刻み込まれていた。

古代文字で刻み込まれた呪いの言葉が光るたびに街には炎が吹き上がり、地面が割れ、
石の雨が降り注ぎ、あたりを破壊した。
化け物はネペトリ神殿を見ていた。
化け物が狙うのはただ一つ、ハルコンの彫像「ポセイドンの祝福」だけだった。

化け物は警備兵たちの攻撃にも一切ひるむことはなく、ネペトリ神殿が見える水の庭の真ん中まで侵入してきた。
夜明けからトリックスター聖殿でポセイドンに祈りをささげていたトリックスターたちは外の騒ぎに目を開けた。
それまで修練を重ねてきてはいたが実践ははじめてだったため、彼らは神に加護を求め、水の庭へと向かった。

この戦いはトリックスターたちに大きな意味があるものだった。
守護者たちがトリックスターたちの知恵と勇ましさを判定するための試練の場にもってこいだったからだ。
長時間におよんだ戦いは、トリックスターたちの勝利で終わった。
アルテオ帝国の人々は彼らを英雄としてあがめた。

化け物を倒したトリックスターたちは、16人の守護者から神と人間の間を取り持つ媒介者として承認を受けることができた。
そして守護者達はトリックスターたちを導き、帝国とネペトリとハルコンの彫像を守護させた。

ダニヘンの日記帳

序文

これは僕の魂の記録であり
僕の愛の告白である。
そして消え行く記憶の集合体であり、
秘密の真相でもある。

初めての出会い

僕はあの日を忘れない、彼女に初めて出会った日を、
少女が生まれる前から両家では僕と少女の政略結婚を約束していた。
それは僕と少女の結婚ではなく、企業と企業の結婚を意味した。
僕はそれでも構わなかった。
なぜなら、少女と初めて会ったその瞬間からこの出会いが運命であることが分かったからだ。
初めて見た少女は今目覚めたばかりで、目からは涙が流れていた。
少女の目の奥深いところにある女性の姿が涙に浮かんでいた。
その女性は、今までに見たことがないような美しい女神のような人だった。
女性はしばらくすると涙とともに少女の頬を流れた。
僕は少女の涙を拭いてあげた。僕の手に少女の涙がついた。
涙は僕の肌に染み込まれて僕の魂の中に染み込んだ。
僕はロザリンというその少女を愛するようになるとともに、美しい女神のような女性を愛するようになった。

婚約式

ロッジ(ロザリン)が10才になる誕生日、僕たちの婚約式が行われた。
世間の注目を浴びながら婚約式は盛大に行われた。
人々は幼い僕たちを興味深く見守り、多くの著名人たちが訪れ、僕たちの前で丁寧に挨拶をした。
ロッジはこういう行事は苦手のようで、笑顔がどんどん無くなりますます白くなってきた。
婚約式に参加した人の中には幼い歳に自分の意志と関係なく婚約をするロッジが可愛そうだと噂する人もいた。
お祝いパーティーが終わろうとしていた時、僕はロッジと一緒に参列者の目を避け、庭に出た。
僕たちの身を隠すことができるぐらい生い茂った薔薇のある秘密の場所へロッジを連れて行った。
そこで僕は用意しておいた小さなケーキにロウソクを付け、周りに咲いている濃い桃色の薔薇の花で作った指輪をロッジの手にはめてあげた。
"ロッジ、誕生日おめでとう。これからは二人だけの婚約式をしよう。永遠に、僕の恋人になってくれるかい?"
ロッジは指輪をはめた手を眺めながら頬を赤く染め、コクリと頷いた。
"信じて下さい。なにがあっても変わらない私の永遠の愛を…"

兆し

15才の終わり頃からだった。
肌がカサカサになり、髪の毛が普段より多く抜け始めた。
酷い不眠症になり、ようやく寝れたとしてもいつも悪夢だった。
夢の中で僕は大きな化け物になり、多くの人を殺したり、攻撃されたりした。
僕は夢の中でロザリンではなく別の女性を愛し、言葉にできないくらいの悲しみを背負っていた。
時々夢と現実の世界が曖昧になり、目を開いても幻影や幻聴が聞こえた。
僕の様子がおかしなことに最初に気づいたのはロッジだった。
僕のことを心配したロッジは前より僕に会いに来る回数が増えたが、僕はますます彼女と距離を置くようにした。
もっと惨めな姿になる前にロッジの世界から消えたかった。
父も僕の病気が深刻であることに気づき、皆が眠ったある日の夜に人々の目を避けて夜逃げをするように家を出た。
父は誰も探せないような所へ僕を送ってくれた。

父は僕の病気の治療のために地中海にある小さな島を1個買った。
島の山の中腹にある別荘が僕の療養所になった。
島には20人余りの村の人がいた。
彼らは不思議そうに島の新しい主人である僕を迎えてくれた。
僕は、別荘からほとんど出ることはなかった。
島に来てから、僕の姿は急激に変わってきた。
最高と言われる医者たちを専用機で呼び寄せて治療を受けたが、症状は良くなるどころか悪化する一方だった。
全身はシワだらけで、シワの間からは奇妙な液体が染み出てきた。
体重は落ちすぎて僕はまるで生きているミイラみたいだった。というのも全身に包帯を巻かなくては肌に服が張り付きまともに着ることすらできなかったためだ。
前はいなかったカラス達が僕にまとわり付いた死のにおいを嗅いだのか海を渡って僕のところにやってきた。
別荘も僕とともに命を失うように生い茂っていた木の葉はみんな落ち、その葉の代わりにカラスが集まってきた。
僕の症状に関しては父と担当医師、それと乳母以外には秘密にされた。
世の中には僕が死んだことになっていた。
暫くすると僕のいとことロッジが婚約したという噂が飛び込んできた。
僕は辛くて泣き叫んだ。病気の辛さより死ぬことができないことに対する辛さだった。
僕の泣き叫びはカラスの声と交じり不思議な奇声となり島中に響いた。
島の人々はこの家からおばけが出ると近所に近づくことさえ避けていた。
その後、島に疫病が広まった。
島の人々はカラスと僕のせいだといった。
疫病は島一つを一瞬にして死に追い込んだ。
最初に死に至ると思われていた僕を除いて、島の全員が先に死の国に旅立った。

運命

病気によって僕は死に至ることはなく、姿だけが変わるだけだった。
僕は名前も分からないこの病気のことで苦痛の中に居たが、死ぬことはないという感覚はあった。
その事は父にも共有していた。
病気で変わった姿を見て僕だと分かるのはもう父しかいなかった。
僕は全身手術を受け始めた。
骨とシワしかない全身に新しく脂肪を注入し、毛髪と皮膚を数十回移植するのに8年かかった。
手術の合併症と副作用のため、一生僕が飲まなければならない薬は数十粒で、日に2回の注射を打ってもらわなければならない体になった。
これでは薬を入れる生きてる革の袋に過ぎない。
だが、そうしてでも生きたかった。ロッジを愛するために。
ロッジの中の名前の分からない女性を愛するために。
僕に与えられた運命の最後を見守るために…。

アナベルリAnnabel Lee

by Edgar Allan Po

遠い昔のことです。
海辺のある王国に
皆さんが知ってるかもしれない少女が住んでいました。
その娘はアナベルリと呼ばれていました。
アナベルリは何も考えずに生きていました。
僕を愛して僕に愛されること以外は。
僕も彼女も幼かった
海辺のこの王国で
でも、僕たちは愛以上の愛を体験しました
僕と僕のアナベルリは
天使たちでさえも
彼女と僕をうらやましがるような愛を。
確かにそのことでした、昔
海辺のこの王国に
ある雲から吹いてきた風が
僕の美しいアナベルリを冷たくしたのは
そして彼女の家族がやってきて
彼女を連れていっては
墓の中に閉じ込めてしまいました
海辺のこの王国にいる
空では僕たちの半分くらいも幸せでない天使たちが
彼女と僕を見てずっと嫉妬をしていたようです
そうです!確かにそれだと思います(誰でも知っているように
海辺のこの王国では)
夜中雲から風が起きて、
僕のアナベルリを冷たくして死に至らしめたんだ。
でも僕たちの愛はもっともっと強かった
僕たちより年が天上の人々の愛より
僕たちよりはるかに賢い人々の愛より
あの空の天使たちも、
海の下の悪霊たちも、
僕の魂を決して切り離すことはできません
美しいアナベルリの魂から。
月の光がさす時はいつも僕には
美しいアナベルリの夢を見て、
星がある時はいつも僕は
美しいアナベルリの輝く瞳を感じるんです。
だから夜が明けるまで僕は横になっています。
僕の愛、僕の命、僕の新婦のそばに、
あそこの海辺の墓の中に、
波の音が聞こえる海辺の彼女の墓の中に。

僕はこの詩を読んで泣いた。
僕はこの詩を読んで全てを思い出した。
僕が誰なのか。
彼女は誰なのか。
僕たちは誰なのかを。

夢を見た。
僕の記憶は夢になって、僕の夢は記憶につながった。
僕は夢の一部を掴んで現実に持ってきた。
僕の部屋に掛かっている絵がまさに僕の夢であり僕の記憶の一場面だ。
そして…

額縁の中に僕の秘密を隠すことにした。
この部屋に隠された別の秘密の空間を探す手がかりの秘密を…

冒険の書

## 序文 #######################

この本は大勢の住民に推薦を受けた、勇ましく正義感に溢れた
暖かい心を持つ人の業績に関する記録と評価を残していく本である。
私たちはこの本を「冒険家の本」と呼ぶことにする。
あなたがこの本の持ち主であり、本の中の主人公となって一冊の本を完成する時、私たちはあなたを「最高の冒険家」と呼び、永遠に記憶に刻まれるでしょう。

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一番目の街 マリンデザート

サンドマンの推薦者「好奇心にあふれる者」
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この人は「サンドタール」の秘密を知ろうと、サンドマンのお願いを文句を言わずに聞いてくれた。
たとえ口に合わなくても「サンドタール」を試食するに至る好奇心まではなかったが、冒険には十分な知識と好奇心を持っている。
正しい知識と好奇心を持ち、この冒険を通して豊かな経験ができるよう願う。
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|===MEMO=======================|
パラダイスで習得した内容

[サンドタール]
*説明
サンドマンたちが製造する特殊配合建築用材料。
不毛の砂を生命の砂に変え、こなごなになった砂を結束力の強い砂に変える神秘の結合硬化材。
*配合材料
「モエモン」たちが盗んでいったサンドマン種族の「伝説のレシピ」に材料が書かれている。
*製造方法
スコップの面積183分の89位の分量を66度の角度で一口取って口の直径を12.3389cm開いたまま、口の中に27mlほどの唾をためる。
口に入れたら右側に三回、左側に三回まぜてもぐもぐすれば適当な割合で飲み込むことができる。
この方法で大量に摂取し、神聖な意識(?)を挙行させて、サンドマンの身の中で化学変化を起こさなければならない。
この時の水分含有量の割合が適当でなければ、硬すぎたり柔らかすぎたりする不良品が出てくるので気をつけて。

*サンドタールの奇蹟
古代サンドマンたちのアルテオ帝国建国、ピラミッド建設、パラダイス建設など…

二番目の街 カバリア遺跡

倉庫番ジュリオの推薦者 “信頼に値する者”
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この冒険者は他人の困難にも立ち向かう本当に情のある正義な人物です。
長い間付き合ってきたわけではないが、私の大切な黄金の絹袋を預けても安心することができます。
他の人達が私の話をいい加減に聞いていた時、彼は真面目に聞いてくれてまたその話を信じてくれました。
この冒険者は重要な事を全て受け入れて自分のものにすることができる器を持っている人だと思います。
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|===MEMO=======================|
カバリア遺跡で習得した内容

[アルテオ帝国の建築設計図スクラップ]
アルテオ人の理想的な人生と空間の釣り合いがよく一致して特別な機運を発させる空間の秘密が込められた設計図。
精巧で独特な方法で設計された構造は現在人でさえ真似ることが難しい困難な公式と表記法で構成されている。

[ボルカン種族]
アルテオの一種族。
生まれながら賢い頭脳と鋭い感覚、優れた手業を持っている種族。
アルテオ帝国の建築物を設計し、学術的でも造形芸術、医学と科学などの実用技術と貿易、外交などに頭角を表したと伝わる。
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三番目の街 ウブス港

ステン船長の推薦者“信頼できる者”
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この冒険者は好意を持って好意を尽くすことができる豊かな品性を持っている方です。
自分のための冒険ではなく、自分と他人に向けた開かれた冒険をする、真の冒険の意味がわかる方だと思います。
長年の間船に乗りながら多くの冒険家に出会ったが、推薦をしたことはありません。
しかし、この方なら是非とも推薦をしたいと思います。
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船乗りミンの推薦者“夢を持っている者”
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Wow!この方は俺程大きくて楽しい夢を持っている冒険家です。
夢をつかむためには周りに協力してもらうこともあるかと思いますが、逆に協力することも大事だと思います。
HAhaha~大変なときにお互い助け合い、また励まし合いながら、お互いの夢を一緒に掴んでいくのです。
この人はきっと夢をつかむことができる能力のある人だと思います。
見守ってあげてください~船乗りミンが保証します~
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|===MEMO=======================|
ウブス港にて習得した内容
[差出人名のない手紙]

ステン船長がウブス港の近くにある村で拾ったという手紙には過去にどこかで存在していたかもしれない島とその島に存在するウブス港と村に関する文章が書いてある。
その村の誰がどうしてこちらに再現したのか…?
この手紙を書いた人?それとも手紙の中でかすかに言及された老人?彼らは存在しているのだろうか?
それならばその中の誰かはこの島を作ったメガロカンパニーとはまたどのような関係があるのだろうか?
トリックスターになるためにこの全ての疑問を解かなければならないのか、トリックスターになれば解くことができるのか分からない。
引き続き冒険をするしか…。
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四番目の街 マーメイドパレス

マーメイドマリンの推薦書 「約束を大切にする者」
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この方は人魚たちの話に耳を傾けて、マーメイドパレスダンジョンに呪いで縛られたタニア姉さんをいつでも呪いから解放されるように手伝ってくれると約束しました。
この方ならそれが期することのできない虚しい約束になったとしてもその約束を大事に考えてくれる方だと感じられます。
確かにこの方は素敵な冒険者、真のトリックスターとして生まれかわってマーメイドパレスにも幸せを運んでくれると思います。
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|===MEMO=======================|
マーメイドパレスにて習得した内容
[タニアが使っていた復讐の刀]

いつも冷静でジェントルマンみたいなストロング船長に辛い過去があるというのは初めて知った。
彼の備忘録を通じてメガロカンパニー号が沈没された当時の状況がわかるようになった。
その時に起こった事は妄想ではなく実際にあった事だったのをマリンに受け取った「タニアの手紙」で確認することができた。
メガロカンパニー号を紙を切るような感じで切断してしまった「復讐の刀」…。
またその刀が現れてドン・ジュバンニが新たな主人になった。
なにか不思議な予感がするのはどうしてだろう…。

五番目の街 ゴーストブルー

クア村長の推薦書 “悲しみを理解しようとする者”
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人々は自分の悲しみも理解せずそっぽ向こうとする。
それなのに他人の悲しみになるとどうだろう。
他人の悲しみにちっとも共感することができない若者達がいっぱいいるのに、この冒険者はストロング船長の問題だけではなく、ゴーストブルーに埋めておいた魂と彼らの家族が感じる悲しみを理解しようとし、また手助けをしようとしていた。
こんなに深く愛情の溢れる冒険者なら私も喜んで推薦書に1行加えたい。
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|===MEMO=======================|
[ゴーストブルーが危険な海になった理由…?]

長い間ゴーストブルーで過ごしてきた経験からアクアリースのクア村長の推測によれば、このゴーストブルーが危険な海になったのは何かを守るためじゃないかというようだ。
あの、ハルコンの彫像か何かという。
根拠のない推測だけどいまだに誰も見たことのないハルコンの彫像「ポセイドンの祝福」…

それは本当に世の中に存在するのか。
その彫像は自らを保護するために、あるいは彫像の守護者たちが彫像を守るためにゴーストブルーは原因の分からない事故と予測のつかない危険な海になったのだろうか。
この冒険の書を完成する頃には答えが見付かるでしょう。
私は答えが見つかるまでこの島で行われているゲームに挑戦したいと思う。

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六番目の街 ローズガーデン

ロザリンの推薦書 「思い出の大切さを理解する方」
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自分の目標に向かってひたすら前だけを見ながら走り続ける他の人々とは違い、この方は時に他の人を振り返ることのできる余裕と思い出の大切さが分かる方です。
いつかは忘れてしまう純粋な気持ちを大事にする人。
この方はそんな心を持った方だから私の思い出を理解してくれたのです。
この方の冒険に少しでも役に立とうと思って推薦書を書いてみます。
--------------------------------

|===MEMO=======================|
[ローズガーデンに思い出を埋めた幼い恋人たち]

ドン・ジュバンニの恋人であるロザリンとローズガーデンで再び会うとは予想していなかった。
彼女は誰かを待っているように見えたが、その相手はジュバンニではないようだ。
美しいけれど危険の溢れるローズガーデンに彼女を一人置いていくことに気がひけて彼女に誰を待っているのか聞いた。
普段は気軽に声をかけることのできない彼女だったが、私だけには少し心を開いてくれて彼女の幼い時の思い出と、待っている人について話をしてくれた。
幼かった彼女を導いてくれた「ダニヘン」という少年との思い出と約束、その約束の日が今日だがダニヘンという少年はもうこの世の人ではないという事など…。
彼女とダニヘンが幼い時に埋めておいた童話の本を探す最中で、驚くことにダニヘンが送ったと思われるメッセージを受け取った。
このメッセージはおそらくどこかにダニヘンが生きているか、またはダニヘンと彼女の事をよく知っている人がいるか、
ダニヘンが自分の死を見越して彼女が童話の本を探すと思ってあらかじめ書き溜めた手紙ということだが、果たしてどうだろう?

もう一つ付け加えると、彼女はローズガーデンに初めて来たそうだが、何故か見慣れた場所だと言った。
ダニヘンと彼女だけの幼い時の秘密の花園をそのまま持ってきたような場所にすごく驚いたというが…。
ローズガーデンでロザリンにあったことで、トリックスターというゲームについてもっと知りたくなった。
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七番目の街 スワンプ

神官タウの推薦書 「思いやりの気持ちをもつ方」
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この方は相手のことを心から考えてくれる思いやりのある暖かい方です。
思いやりというのは特別なものではありません。
一言声をかけたり興味を持ったりするのも思いやりです。
冒険をすれば新しい人に出会うことも多いですが、すれ違いで出会ったことですら一つの縁かもしれません。
その縁を大切にできればと思います。
冒険者は二度と会わないだろうと人に冷たくせず、人に思いやりの心をもっていただけたらと私は思います。
この方はそういう思いやりの心をもっている方だと思いますので私も推薦書に一言付け加えます。
--------------------------------

|===MEMO=======================|
[スワンプフィールドの伝説]

幼い頃から町の責任者になった神官タウには特別な過去があった。
幼い時沼に落ちて生死を彷徨っている時、沼の中に住む巨大な生物が彼を助けてくれたのだ。
その時の奇跡的で神秘的な経験が彼を司祭の道に導いたし、巨大な生物はスワンプ地域を守護する神の存在になったと伝わっている。
この頃あの時のことが繰り返して夢にあらわれる。
神官タウの夢は何を暗示しているのだろう?
そしてチャガンの夢に対してその意味を解いた占いおばばのメッセージは一体何を意味するのだろうか?
私と無関係ではないということは…。
スワンプ地域の沼にはたしてどのような生物が暮らしていて、いつまた姿を表すのか?
これらは何らかの関わりを持っているのではないかと思うが、そんな簡単には決めつけないことにした。
もう少し自分の力を磨いていよう、もう少し時間が経てば分かるようになると信じてこの冒険を続けていきたい。

メモ

遺産を譲る条件

選ばれし者だけがトリックスターになることができる。
おぬしにトリックスターの血が流れているかを知るためには、長い間眠っていたおぬしの潜在能力を覚醒させなければならぬ。
そのためにはまず、どんな苦境でも生き残る強さを養わなければならない。
まず手始めに…そうじゃ、伝説の巨大なハルコンの彫像「ポセイドンの祝福」まで儂を案内してみせろ!
これら全てこなすことができれば、おぬしをこのゲームの優勝者として讃え儂の遺産を譲ろうではないか!

匿名の手紙

もの静かで平和な島に小さな港の村があった。

ある日、この村に幼く美しい少年がやってきた。
体調が悪くて療養をするために来たと言われた。
村の人々は美しいその少年を愛し、気をつかっていた。
しかし、少年は島へ来てすぐ病状が悪化していき、
彼の外貌も醜く変わっていった。
村の人々は慰めてあげようとしていたが、少年は村の人々に会おうともしなかったし、彼の家から一歩も出なかった。
それからしばらくして少年が住む家の庭には以前は見ることのなかったのだが、どこからか飛んできたカラスの群れが沸き始めた。
少年の家はカラスの黒い影と鳴き声で包まれ、誰もが気味悪がりその家の近くに行こうともしなかった。
村の人々は少年の様子が分からなくなり、変な噂ばかりが広まっていった。
カラスたちが病気で死んだ少年を食べてしまったから、跡形もなく消えてしまったといったものだ。

それから少ししてから、村の様子がおかしくなっていった。

カラスの群れが原因なのかよく分からないが、村には病名の分からない疫病がはやり、村の人々はみんな病に伏せていった。
港を出入りしていた船人たちも病んでいき、もう村に人跡がなくなってしまった。
村に残ったのは死んだ者達の魂と村を包み囲んだカラスの群れだけで誰も生き残ることはできなかった。
まぁ…村のはずれで疫病の被害を被ることなく、生き残った人が一人だけいるといううわさもあったりする。
暗い夜、船に乗って島を去ってしまったその人は姿を隠していたが、小さな年寄りの姿だったようだ。
だが、我が村にはそんな年寄りはいないはずなのだが…

私が残りわずかな命でこの記録を残すのは、誰かしらにこの手紙を読んでもらい、この村で起こった事と村の存在について知ってほしいからだ。
私はこの島の最後の村人で、あなたがこの手紙を見つけて読んでいるころにはもう私も死んで青い光で村を染める病んだ魂になっているでしょう…

T.S

タニアの手紙

タニアの手紙

最初は…ただの好奇心だった。
人々が波路として利用しない海域に、そして私達人魚も嫌がるあの海域に「メガロカンパニー号」と書かれた大きな船が航海してきたの。
何回かその周りをくるくると回って人間の男達をちょっとだけ見て帰るつもりだったの。
ところが、甲板の上に立って海を見つめていたその男と目があってしまったの。
きらめく黒髪に茶色目の肌、がっちりした体つきと息が詰まるほどの強烈な目つきを持った男。
「ぱぁっ」と笑うその姿と男らしさに私は惹かれてしまったの。
そして、マーメイドウィッチと契約をして、人間になったというよりは二個の足を手に入れることに成功したわ。
足さえあればその男の心を惹くのは造作もないことだと思っていた。
どんな男だろうと私を断るとは思っていなかったわ。
救命ボートで救助を待つ人のふりをして、彼らに近づきその船に乗ったの。
船員達は私に好意を持って近づいてきたけど、私は他の男なんか興味なかったわ。
「マーク」と呼ばれたその男にしかね。
でも、その男は他の男たちとは違い私には少しも興味を示さなかったわ。
その内にマーメイドウィッチとの約束の時間が迫ってきたの。
私は焦り始めた。
その男の心をひくことができなければマーメイドウィッチから借りた刀で船を沈没させなければならなかったから。
マーメイドウィッチはその約束を守らなければ、私だけでなくマーメイドパレスにいる全ての人魚たちを泡にしてしまうと言っていたから。
約束した日の前日の夜明け、甲板に出てマークを誘惑したの。
でもマークは「結婚して家族もいるから、君には全く興味がないんだ」と冷酷に私に言ったわ。
心はズタズタになり、傷付き、私は海に落ちたわ。
私に残されたのは「復讐の刀」だけだった。
翌日、私は「復讐の刀」を持って船に向かった。
血と涙で刀はぐちゃぐちゃになったわ。
そして私の愛は終わったの。

備忘録

メガロカンパニー号の沈没に対する記録
(魔の地帯で起こった事)

[失踪だと思われていたメガロカンパニー号の船長、
 劇的に救われて帰還。
 メガロカンパニー号は沈没し、生存者は一人だけ]

その頃、各種新聞とメディアで取り上げられたメガロカンパニー号の沈没事件の概要はこうだ。
私だけが唯一の生存者として確認された。
調査当局は私の発言が調査過程において船の沈没経緯に対しての発言に一貫性がなく、確認不可能だという理由で、私の証言を一切黙殺し、私の船の沈没原因を気象悪化と障害物による難破であると公式的に明らかにした。
しかし、私はこの備忘録にメガロカンパニー号で経験したことについてここに記録を残す。

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200X年8月13日前後と記憶される日付

魔の地帯を航海していたところ、経験したのか現実なのか幻なのか自分でも確信しにくい事態に遭遇した。
時間が経って記憶が薄れれば、それはますます嘘みたいな話になるはずだろうから、その時に経験したことを、今ここで、私の備忘録に記録しておく事にする。
さまざまな資材を運び出す大型貿易船「メガロカンパニー号」はプエルトリコを経由して南米のリオデジャネイロ港に向かっていった。
厳しい日程に合わせるため、航海する者なら絶対に経由しない魔の地帯を通ることを強行したのが災の元となった。
魔の地帯と思われるところに入った頃、大きな魚が船に近づき、船の周りをくるくると回っていた。
最初は普通のイルカかなにかだと思った。
イルカは人間のことを親しく感じているためか、航海中よく会ったりする事があるからだ。
そして、それは決まった距離を置きながら船の周りをおかしいほどしつこく徘徊した。
その時他の船員たちの間では、それは船に乗っている船員の一人である「マーク」を追ってるようだと言った。
「マーク=リー」(Mark Lee)は30代後半の東洋系で、がっちりした体格の男だった。
マークは年よりずっと若く見え、ハンサムで礼儀正しかった。
外貌にしろ品性にしろ、船乗りらしからぬものだった。
当時は船員評価でいつも彼に良い点数を与えていた。
とにかく、最初は他の船員たちの話を聞き流していたが、あまりに船員が騒ぐので、それを望遠鏡で注意深く観察してみることにした。
レンズてみたそれは人魚のようだった。
人魚も私が見たのに気づいたようで、素早く水中に潜り込んでしまった。
あまりにも信じがたかった。
私は肉眼で再び確認するために素早く駆け付けたが、もう人魚は姿を消してしまった。
それからしばらく船の近くに人魚が現れることはなかったため、私は自分の目と潜望鏡の性能を疑うしかなかった。
私は、この事をその日の航海日誌には記録しなかった。

魔の地帯では時計も羅針盤も正確ではなかった。
船の航路は不思議なことに同じ地域をぐるぐる回っているように感じた。
厚い暗雲で覆われた空は、一日中暗くて今が夕方なのか夜明けなのか、日付がどれほど経っているのかさえ把握し難かった。
そのような状況の為、メガロカンパニー号はずっとそこから離れることができなかった。
そのうち、船員たちの間では生存に対する危機感が漂った。
万が一に備えて私たちは生活に必要な物資の節約を迫られた。
さらには辛うじてつながっていた通信も異常気流によって途絶えることになった。

そんな折、船員のうち誰かが叫んだ。
「人だ!人がいる!」
興奮する船員の指差す先を見ると、漂流する小さなボートが視野に入ってきた。
非常脱出用に見える救命ボートには若い女が気を失って倒れたまま乗っていた。
近くに難破された船があるかどうかの確認をする余裕もなく、まずはそのボートを救助した。
彼女の髪は長く、シルクのような布で全身をくるんでいた。
その姿は異国的というよりは異形的だった。
船医が応急措置をして、しばらくしたら意識を取り戻した。
私は、彼女からこの辺の状況や彼女が乗っていた船の事故経緯、漂流期間などの情報を取得することができると期待していた。
だが、彼女は事故のショックで失語症になったのか一言も喋ることができず、情報どころか彼女自身の身元さえ確認することができなかった。

メガロカンパニー号の航海が十七日目くらいに入ったと推定されるある日、私は航海の焦点を目的地ではなく救助要請と生存に合わせると指示をだした。
私たちはさらに厳格な規律を持って節制された生活をし、考えつく限りの救助要請のありとあらゆる方法を試みた。
我が船に合流した彼女も例外ではなかった。
彼女は男船員たちしかいない状況にもかかわらずよく適応しているように見えた。
そんな中、彼女はある船員によく従っていた。
彼の名は「マーク」。
だれが見ても彼女はマークのことが好きであることが分かるくぐらいだった。
眠ることのできなかった十九日目の明け方、その日はいつもより気が紛らわしかった私は、寝巻きの上に上着を羽織って船の甲板に出てぶらついていた。
月明かりもなく、どこから空でどこまでが海なのかも分からない闇の中で、操舵室から映る明りだけが甲板の上をかすかに照らしていた。
静寂が敷かれた甲板の隅の闇の中、密かに話し合う音が聞こえてきた。
二人の人の話声だった。
暗くてちゃんと見えなかったが、声を聞いた限り一人は「マーク」、そしてもう一人は…!

言葉を話す事ができないはずの彼女だった。

彼女は今まで隠していた声で、マークに愛を告白して積極的に誘惑していた。
マークは困っているようで彼女を押し出し、告白を断った。
自分は既に愛する妻と子たちがいる者だときっぱりと言った。
それから彼女一人を残して船室に戻った。
私もこれ以上甲板にいるわけにはいかず、その場を離れた。
翌日、彼女は船から消えていた。
救助当時に彼女が乗っていたボートも残っており、本人以外に無くなったものは何もなかった。
一体この大海の真ん中で彼女はどこに行ってしまったんだろう?
海に飛びおりていれば何らかの跡が残っているはずだが…。
その時ふと、以前船の周りを回っていた人魚のことを思い出した。
「あの人魚だったのか?」という疑問と同時に不吉な予感がした。
彼女が消えた翌日はひどい嵐だった。
船員たちはあっちこっちへと行ったり来たりしながら船の施設を点検した。
かじ取りと機関士は、目の前に突然現れる障害物を避けるのに必死だった。
その直後、私たちは己の目を疑った。
遠く波の間からあの彼女が見えた。
彼女は長くて鋭い刀を高く持ち上げて、荒波をものともせず滑るように泳ぎ、船の近くに近づいてきた。
彼女の勢いは、巨大な化け物を切るために正面から刀を持って対立した闘志のようだった。
彼女はその刀で一体何を切ろうとしているんだろう。
まさか超大型船舶の後部を刀で切ろうとしているのか?

そんなことを考えた直後、船の後部はあっけなく、嘘のように彼女が持った刀によって紙を切るように裂けた。
それからあっという間に船の中に水が上がってきて船は沈没してしまった。
船員たちは海に飛びおりて脱出を試みたが、嵐によってばらばらと散らばって、運良く生き残って救われた船員も現在は私だけになってしまった。

メディアで騒がれている通り、障害物にぶつかって船が沈没したと思えたほうがいいと考える時もあった。
沈没に対する衝撃によって錯乱を起こしているのだと自分にいいきかせた。
「魔の地帯」、しかも視野の不安定な嵐の中で起こったことなので、自分の経験したことなら信じがたい。
しかし、それは現実なのだ。どうしようもない…事実なのだ。
みんな話にならないと言うが、なによりも魔の三角地帯の存在自体が話にならない空間ではないか。

未だに夢にみる事がある。
その夢が、刀の閃く事件が実際に起こった事であるという事を思いださせるのである…

Dの手紙

私の愛する人

時間になれば君は約束に従いこの本を取りに来るだろう。
君の大切な約束を守れなかった私を許しておくれ。
童話の野獣の魔法は解けたが、現実はそうではない。
君の愛でも私の魔法は解けないだろう。
結局魔法の解けない野獣と美女の愛はハッピーエンドの童話にはならない。
だから私はこの童話を台無しにしたかった。
しかし、無条件で愛を信じ、愛を守ろうとしている人がいればこの手紙は伝わる。
もう私との思い出は忘れてほしい。
そして、君だけはいつまでも幸せになってね

君のD

夢合せ文書

それは貴人や配偶者に会う夢。
虹は約束と結婚を象徴。
チャガンはまだ幼いゆえに愛が結ばれるには年月がかかるだろう。
彼女の行く末を眺めなさい。
たとえ遠く離れることがあったとしても虹の約束は守られるのだから。

ネペトリが目覚めた理由

私はハルコンの彫像の中で長い間眠っていました。

ハルコンの彫像の中で長い眠りについていた私を覚ましたのは彼の怒りと悲しみです。
決して逃れることのできない呪いを持って生まれて、何も知らずに生きてきた彼が全ての記憶を取り戻したのが発端でした。

この世で彼に与えられた残酷な運命の糸を断ち切らなければなりません。
世界の脅威となる巨大な復讐の力が目覚める前に、その力を阻むためにあなたの助けが必要です。

あなたが真のトリックスターになって海の中で眠る私を捜しだしてくれる日を待っています。
その時がくるまでこのネックレスはあなたにお預けします。

伝説に関する歌

何も見えない深い闇の中で
僕たちはお互いを見つめています。
あなたの目は僕を見つめていました。
ところが、あなたは僕のことが分からないみたいでした。
僕はあなたを知りませんでした。
何も見えない深い闇の中で
僕たちはお互いを見つめていたからです。

僕たちを取り囲む永遠の深い闇のように
僕たちの魂は永遠の深い闇に沈んでいます。
一緒にいるけど、そばにあるこの孤独は
苦痛の時間とともに永遠に向かって沈んでいきます。
苦痛を伴わなければ愛とは呼べないでしょう。
苦痛を伴うからこそ愛でしょう。

闇が消えても夜は明けません。
闇が消えると黄昏が来ます。
凄まじい美しい血の色の夕焼けのように
結ばれることのない切ない愛の話
誰にも許されない

これは私たちの愛の物語






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Last-modified: 2016-03-05 (土) 14:59:04